そして「宇宙散骨」へ
葛西は「海洋葬」なども手がけているが、ある時、ふと空を見上げて「誰も空に撒いてない」と感じたのだという。
天啓と言うべきだろう。
「宇宙に散骨できないのか?」
女性司会者として葬祭の世界に飛び込んだその行動力や発想力は、いよいよ宇宙に向けられた。葛西の中では“必ず出来る”という確信があった。
周りは「出来るわけがない」という反応だったが、実は既にアメリカでは、NASAと契約した無人ロケットで、遺骨をカプセルに納めて宇宙に運ぶ業者が現れていた。
まさに慧眼と言わねばならない。
しかし、飛ばした後はどうなるか分からない。
葛西は宇宙散骨で譲れない条件があった。
「絶対に人の手で撒きたい」と思っていた。
このまま夢で終わってしまうのか…そう思っていた時、知り合いからなんと宇宙飛行士を紹介されることになった。
「去年なんです。宇宙散骨が夢じゃないと思えました」
ただその人はとても忙しく、紹介者も年に数回会える程度だった。
だが葛西の思いが通じたのか、すぐにチャンスが巡ってきた。交流会で会えるという。
飛ぶような気持ちで参加した。
その人とは、現在の日本で唯一の民間宇宙飛行士、山崎大地(やまざき たいち)さん。かつてはNASAの国際宇宙ステーション運用管制官実運用訓練生だったという本物の宇宙飛行士だった。
会では会うとすぐに「ご遺骨を宇宙散骨したいのです。人の手で撒きたいという夢があるんです。山崎さんにやってもらいたいんです。」と率直にその思いをぶつけた。
すると彼の答えは「大丈夫。できますよ」と。
来年の秋に自分が契約する宇宙会社からロケットが飛ぶので、それに山崎氏が乗れば散骨することができるのだという。
葛西は夢が開ける思いがした。
そして、今年の一月には「宇宙散骨」のイベントも開催して一般にPRした。
人の手で宇宙に遺骨を撒くことができるということを、少しづつだが社会に伝えはじめている。
実際にはスペースシャトルタイプの宇宙船で宇宙に飛び、船から遺骨のカプセルを放つ。カプセルは永遠に地球の周りをまわり続けるのだ。
また、8人乗りの気球タイプは成層圏を2時間浮遊する。巨大なヘリウム気球でフライトは6時間ほど。生前葬など葬儀すら宇宙でできる可能性も大だ。
アメリカでは民間会社が先行しており、宇宙港も4月に開港して試験飛行も始まっている。
子供が導いた運命の不思議
葛西は意識していなかったが、そのエポックメーキングにはかならず自身の子供が関わってきた。
葬祭の世界に踏み込んだのも息子の一言からだった。
葬儀MCとともに葛西の最初の飛躍になった音楽葬も、娘の演奏が大きな反響を呼んだ。
いや、既に芸能の世界へ進もうとしていた葛西が家庭へ入ることになった時から、葬儀業から宇宙散骨まで、その運命はもう決まっていたのかもしれない。
人がこの世を去る時、残された人々は花を手向け葬儀を行ってきた。
遥か昔から連綿と続くこの行為は、子供が生まれて来るのと同様、人にとって最も基本的な営みと言えるだろう。
人の生と死、来し方行く末は表裏一体なのだ。
葛西が導く宇宙散骨の夢。
近い将来、子や孫とともにするお墓参りは、遥か宇宙(そら)を見上げることになるのかもしれない。
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