アメリカの治験により、あるワクチンが進行性のHPV(ヒトパピローマウイルス)関連の頭頚部癌に対しても治療効果を強化する可能性があることが分かってきた。
ヒトパピローマウイルスとは生感染性のウイルスで、アメリカでは頭頚部癌の主要原因となっている。
日本でも子宮頸癌の原因とされており、予防ワクチンなどもある。
これらの癌患者は年々増加傾向にあり、初期であれば完治も可能だが、末期患者に対しては最も高度な癌免疫療法をもってしても全患者の15%程度しか助からないと言われている。
そこで米ペンシルバニア大学の研究者たちにより、新しいワクチンが小規模の治験で試された。結果患者の癌免疫療法薬の効果を向上することが確認され、治療の選択肢がほぼ残されていなかった患者に希望を与えている。
ここ最近のHPV由来の頭頚部癌患者の増加は医療業界、一般社会双方に衝撃を与えていた。
HPVは性感染性の一般的なウイルスで、性器や口腔内に伝染性のイボを作ることで知られているが、大抵は自然治癒し害になることはない。
しかし、HPVは女性の子宮頸癌を引き起こすウイルスとして長年警戒されている。HPVはほぼ100%の確率で誰でもどこかのタイミングで感染しているのだ。
ヒトパピローマウイルスには100種類以上の型があるが12種類あまりが癌の原因となると言われている。特に高リスク型と言われるのが16型と18型だ。
この2つの型は年間65,000人の頭頚癌のうち約70%の患者の癌発症原因と言われている。
先にも述べた通り、初期であれば完治も可能だが、それでも年間13,700名以上が命を落としている。
最も効果的な防御法はHPVワクチンで、11歳か12歳の頃に投与されることが推奨されており、女性は26歳までに、男性は21歳まで2~3回投与を受けることが出来る。
しかしそれ以降は高確率で既にウイルスに感染している可能性があるため、ワクチンを受ける意味がなくなるそうだ。
「確かに10代や若い世代はワクチンを受けている人口が増えていますが、では一度もワクチンを受けた事のない世代は?その人達への対応が急務なのです」と主要研究員のCharu Aggarwal医師は語る。
転移性の頭頚部癌を発症する患者の約20%ほどが外科的手術で癌を摘出することが不可能なため、癌免疫療法である「抗PD-1抗体」を投与することで自己免疫を刺激し、最後の望みとして癌細胞を攻撃するT細胞が正常に機能することを期待する。
しかし免疫療法を受けた患者の15%~20%にしか効果を発揮しないのが現実だ。
「我々にもまだ何故効果がない人がいるのか完全には分かっていませんが、非常に残念です。推測ですが、人によっては本質的に免疫細胞が癌細胞に到達して攻撃できないのかもしれません。」
しかしこの度、彼女のチームはMEDI0457というワクチンを開発、癌を引き起こすHPVに狙いを定めて攻撃するのだ。
「このワクチンにより癌細胞に向けてT細胞や白血球を運ぶことが可能になります。」
とAggarwal医師は語る。
彼女のチームはこのMEDI0457ワクチンを既に頭頚部癌を克服した患者21名に投与。
期待する免疫反応が起きるか確認した。
既に克服した患者を対象としたのは、万が一期待する免疫反応が出なかった際に、転移性の癌患者に対しては無意味になってしまうからだ。死が迫っている末期患者で積極的な治療が必要な方に「新ワクチンを試します」とは言えない、と医師は話した。
治験を行った21名中18名には確実に研究チームが期待していた免疫反応が起きた。
実は内一人は初期ステージの手術の前に治験に参加し、その7ヶ月後癌の転移が認められた。
ところが、その患者の癌ステージとしては一般的な免疫療法である抗PD-1抗体を投与したところ、癌は完全に消え、完治したのだ。
「この一連の反応は、ワクチンがそもそもの免疫システムを向上させることで、それに続く抗PD-1抗体の効果を高めたことが示唆される。」と医師は語る。
今後研究チームは末期ステージにある患者50名~60名に対し中規模な治験を行う予定だ。そしてワクチンが近い将来一般に広まることを医師は望んでいる。
予定ではあと数年のうちには実用化しそうとのことだ。爆発的に頭頚癌患者が増えており、若い患者も増えている今、効果的な治療法は切実に求められている。
一日も早く日本にも入ってくることを祈ろう。