NASA宇宙飛行士のスコット・ケリー氏と双子のマーク・ケリー氏はこれまでお互いの人生で多くのことを共有してきた。数分違いで産まれた双子は、どちらも米海軍大佐を経験後宇宙飛行士となりエンデバー号やディスカバリー号に搭乗、その後は国際宇宙ステーション(ISS)での滞在を経験した。
ところがスコット・ケリー宇宙飛行士(54)が約1年間(340日間)ISSに滞在後、なんと遺伝子の7%が地球帰還後も双子のマークと一致しないことが判明、更に生物学上マークより老いてしまった恐れがあると発表されたのだ。
これまで宇宙飛行士の身体が微小重力環境下に対応するため変化することはよく知られていたが、遺伝子学上その変化は地球帰還後に元の状態に戻ると考えられていた。
しかしスコット氏が2016年3月に地球に帰還しても、まだ遺伝子の7%が元の状態には戻っていない。DNA修復機能、骨形成、および細胞の酸素利用を含む一部の遺伝子は永久的に変化してしまったようだ。
今回専門家たちはスコット氏がISS滞在中に、スコット氏と地球に残るマーク氏の遺伝子を比較調査、「双子研究」と呼ばれる画期的な調査を行った。
この双子研究の主任研究者クリス・メイソン博士は「宇宙での遺伝子発現の中でも最も興味深かったのは、人間が宇宙に行くと同時に、まるで花火が打ち上がるかのような爆発的な遺伝子発現が見られたことです。」と語る。つまり、数千もの遺伝子のオン・オフの仕方が変化したというのだ。この遺伝子活動の変化は地球に戻ってからもしばらく続いたという。
今回の研究により、宇宙滞在が分子レベルで人間の身体に与えるリスクを理解すると同時に、それら遺伝子変化を保護、修正するのに役立つとメイソン博士は語る。
研究チームは代謝物質、サイトカイン、タンパク質を宇宙滞在前、滞在中、滞在後に継続的に測定し、膨大なデータを収集した。その結果、宇宙滞在は低酸素ストレス、炎症の増加、劇的な栄養素移行をもたらし、遺伝子発現に影響することがわかった。
老化の程度を表す染色体の末端部分にあるテロメア(年齢と共に短くなるもの)は、宇宙では長くなっていた。地球に戻った2日後には元の数値に戻ったとはいえ、この変化は将来的に老化に対する保護効果があることを示唆している。
とはいえ全体的には、スコット氏の約1年に及ぶ宇宙滞在は身体に有害な影響を及ぼしたということを計測数値は示している。病気に繋がりかねない、炎症による免疫細胞の増加、そしてスコット氏の遺伝子における急速で有害な影響は、双子のマーク氏よりも生物学的には老化を進めてしまった兆候が表れているのだ。
メイソン博士は、スコット氏の宇宙滞在以降、数百もの遺伝子が特有の突然変異を起こしていることを発見。また、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの損傷を示す、血中ミトコンドリアの増加も見られたと語っている。
700もの「宇宙遺伝子」はスコット氏の地球帰還後も元に戻らないままだ。
研究者らは今回の研究結果をもとに、地球軌道を超える将来的な長期宇宙滞在が人間の身体にどう影響を及ぼすのか調査している。NASAは今回の研究が3年に渡る宇宙滞在となる火星探査ミッション計画への科学的な足掛かりになると語っている。
【ソース:The Daily Telegraph】