トンキン湾事件をご存知だろうか。トンキン湾事件とは、アメリカが本格的にベトナム戦争に介入し、北への空爆を開始する原因となったといわれる事件である。1964年8月2日、トンキン湾の魚雷艇施設に対する哨戒行動を行っていたアメリカ海軍の駆逐艦マドックスは、北ベトナムの魚雷艇3隻に攻撃を受けた。
マドックスは反撃し、攻撃を交わしながら後退に成功。ところがその2日後、夜間の激しい嵐の中で再度北ベトナム軍のものと思われるレーダー反応を探知した。
USSマドックスはその後数時間に渡り暗闇の中で攻撃回避のための操船と敵船への砲撃を繰り返した。ところが、確かにソナーでこちらに向かってくる魚雷を探知し、敵船のライトを観測したにも関わらず、結局敵魚雷艇の痕跡は見つからず、マドックス自身、何の損傷もなかったのである。実はこのとき、一緒にいた別の駆逐艦ターナージョイのソナー計は奇妙なものを捉えていた。大きさは魚雷程、しかしまるでそれ自身に意思があるかのような、魚雷とは思えない動きをしながら船に向かってきたかと思うと、船の真下へと消えていったのだ。ソナー技師は、攻撃の誤認を確信した。彼らが魚雷だと思ったものは、実は生物だったのだと。
砲撃後、マドックスの船長ジョン・へリックはホノルルへ最優先扱いのメッセージを打電し、そもそも敵の攻撃自体あったかどうか疑わしいと訴えた。「マドックスから敵の魚雷艇は目視できておらず、さらなる措置を講じる前に慎重に調査する必要がある」と伝えた。
ところが、米国防省のロバート・マクナマラは、慎重に対応するどころか、攻撃を決断した。彼は直ちに北ベトナムに対する空爆を提言し、これを受けた米大統領リンドン・ジョンソンが、トンキン湾事件を引き合いにアメリカ軍が「一方的な攻撃」を受けたと主張したのだ。これにより、アメリカは完全にベトナム戦争へと突入したのである。しかし、USSマドックスは嵐の晩、本当に敵船に攻撃されたのだろうか。
複数の研究者たちによれば、当時魚雷だと思われていたものは実は「Giant Pyrosome」と呼ばれる巨大ホヤの一種ではないかと言われている。Pyrosomeとは、ろ過摂食生物が無数に集まりコロニーを形成したもので、長いチューブのような形をしており、最大30mにも成長する。世界中の海に生息しており、トンキン湾にも生息が確認されている。夜には小さい塊に別れて海面近くを漂っていることもある。動きは速くはないが、その時形成している形や大きさにより、魚雷と誤認してもおかしくはないという。
更に、Pyrosomesは発光生物でもある。危険を察知すると明るく青白い光を放ち、コロニー全体が点滅する。光はかなり明るく、それが周りにいるPyrosomesの発光刺激となる。スミソニアン自然史博物館の動物学者カレン・オズボーン氏は「これが本当に明るいのです!」と語る。「あまりの明るさに日中でも発光しているのがわかりそうなほどです。」オズボーン氏は、Pyrosomeとはギリシャ語の「炎の体」という意味からきていることから、発光して動くこの生物にソナーが反応したことは容易に想像できるという。
「このような生物が存在することを知らずに海中で遭遇すれば、自分が見ているものに対し、何を想像したとしてもおかしくはありません。」
実際、2003年のドキュメンタリ―フィルムFog of Warの中で、元米国防省のロバート・マクナマラ自身が8月4日のトンキン湾攻撃は無かったと語っている。元大統領リンドン・ジョンソンも、「私の知る限り、海軍はあそこでクジラでも銃撃していたのだ」と語っている。
【ソース:The Atlantic】
【ソース:UNEXPLAINED MYSTERIES】