科学者らが認知症などの変性疾患を治療し得る画期的な発見をし、脳は一生成長を止めないことを突き止めたようだ。
以前まで、子ども時代を過ぎると脳内で新たな細胞が作られることはないと考えられていた。だからこそ、大人が新たなスキルを身に付けたり、外国語を学ぶのが難しいのだと考えられていたのだ。
ところが、ロンドンのタクシードライバー達の研究で、地図認識に関わる脳内分野に、神経細胞の増加が見られたことで、脳の特定の分野が過刺激されると新たな細胞が生まれることが分かってきたのだ。
しかしその後の新たな研究で、実は脳内細胞は年齢を重ねてもなお、人が生きている間常に新たに作られていることが発見されたのである。
これまで老齢と関係があるとされてきた認知や記憶の問題は、神経細胞が失われることが原因ではなく、むしろ細胞同士の伝達不全が原因だったのだ。
ニューヨーク州コロンビア大学のマウラ・ボルドリニ准教授は、「年配の人でも若い人と同じように、前駆細胞から数千個という海馬内の新神経細胞を作り出すことが出来ることが分かりました。」と話す。
「我々はまた、年齢にかかわらず脳構造が感情や認知のために使用する海馬の体積は同じであることを発見しました。」
「ですが、高齢者は血管新生が少なく、恐らく新しい神経細胞同士が結びつく力が弱いのです。」
この新発見により、科学者は認知症の原因とその予防法についてより深く理解することが可能となる。現在イギリスでは認知症に苦しむ患者が850,000人存在し、その人数は2025年までに120万人にまで膨れ上がると予測されている。
研究のため、科学者たちは14歳から79歳までの急死した28名の海馬(生前は健康体だった方々)を調査。この中には一人も脳細胞の発達に影響を与える認知障害やうつ病を患った方は含まれていなかった。
人の海馬全体に新たに形成された神経細胞や血管の状態を亡くなったすぐ後に調査する研究はこれが初めてであった。そして、その調査により最も高齢の脳でも死ぬ間際まで新しい脳細胞が形成されていたことが分かったのだ。
「我々は、(どの脳にも)ほぼ同数の中間型前駆細胞と、数千個という未熟な神経細胞を発見した。」と研究著者は結論づけた。
しかし、高齢者は脳構造内に新生血管が少なくなり、小さな前駆細胞プール(神経細胞に変化する子孫幹細胞)を保有していた。
ボルドリニ准教授は、この小さな神経細胞プールと、血管の減少、および海馬内の細胞間結合の低下によって老齢における脳の劣化が引き起こされる可能性があると推測した。
一生を通して人間特有の認知機能を持続させているのは、死ぬまで終始継続する海馬の神経形成だったのだ。
ということは、老齢により低下する脳細胞間結合力を保持する方法があれば、将来的に人間の認知能力や学習能力は実質一生衰えないということだろうか。それはなんとも魅力的だ・・・。
【ソース:The Daily Telegraph】