【第11回】「懐に飛び込む!」の一か条 後編

【第11回】「懐に飛び込む!」の一か条 後編

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怖い話シリーズも前回「【第10回】『懐に飛び込む!』の一か条 前編」をお送りしました。

今回は後編をお送りします。
差し替えした原稿についてはどうなったか。1週間で20話プラスして出した。

5話と言われたが、「やってやる!」という思いと、もう一つは、話を削られて自信喪失もしていたし、20話の中から選んでもらえればという思いだった。
それが今の全46話になっている。しかしこれが後になってとても意味のあることに繋がったのだった。

 

追加20話の中には、全く知らない方々に飛び込んで得た話もある。
その提供者の中に復興コンサートの実行委員長がおられ、その縁で私のプロデュースした復興ソングを歌ってもらえることになり、世界がまた広がった。

本を書くメリットは、その提供者の恐ろしい話でも何でも体験を活字にしてあげられることだ。

 

さて、飛行兵の方はどうなったかというと、本が出版された後、丁重に謝りに熊本のご自宅に伺った。
ご夫婦で笑顔で歓迎を受けた。

「申し訳ありません。本来はこういった話を後世に伝えたいと思っていたのですが…」とサイトの中身をお見せして納得して頂いた。

 

それからしばらくした後、連絡が入った。

 

あなたのサイトの小説を読んだら、素晴らしくよくまとめられていた。私はよく講演をするが、今はあなたの書いたこの原稿を配って説明し、また『熊本の怖い話』も一緒に宣伝している

これには大変驚いた。彼は私の文章と人となりを見てほれ込んでくれたのだ。

そして、3カ月後には熊本の書店からの依頼でトークイベントをすることになった。
ダメ元で、一緒に登壇し、少し皆の前でこの話をしてくれないかとお願いすると快諾。

 

結果、講演は大成功だった。

70歳代の方々が多くいらしたが、90歳の生き証人の特攻兵と空襲体験は、涙を拭く人まで現れた。
本当に怖い話は、生死のはざまの体験にあり、霊はその先に見える自分の死にざまを感じるから怖さがある。

人が霊を怖がるのは、その先にある自分の死を予見するからだと感じている。

最後に元飛行兵に聞いた。「好きな作家は誰ですか」

本当は「渡辺淳一」と答えてもらう予定だったが、「村神徳子と渡辺淳一」と答えてくださり、会場は歓喜の渦になった。

後で、元飛行兵の方にうかがったら、私が彼にとって「美人」であったことも愛される理由だったようだ。
軍人に愛される美貌のタイプなんだろうか。

90歳の元飛行兵の生き生きとした輝きこそ、生きる意味を教えてくれた。

戦争がいけないことも、虚しくみじめであることも、先人の言葉は時を越えて伝えてくれる。

血気盛んな愛国主義70代の論者も90歳の元軍人の冷静な意見にはかなわないようであった。

その後、彼の自宅に伺い、酒を持っていった。
ご夫婦と尽きない会話で盛り上がったが、これから先もずっとこのご縁は続くと思い嬉しくなった。

 

人の懐に飛び込むというのは、そう簡単じゃない。
しかし、こちらの熱意と誠意を込めて、そして相手の体験を尊重することが、そうした信用を得るものだと思っている。

 

彼の後ろに立つ、亡くなった戦友たちの英霊への慰霊と畏敬の念を込めて。

 

 

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